三枝タミの物語(後編)
三枝タミ・・・本編の主人公。小学4年生になったタミちゃんに大きな転機が訪れる
三枝美恵子・・・タミちゃんのお母さん。看護婦として働いている。苦労人
お父さん・・・タミちゃんに大きな転機をもたらした新しいお父さん。いい人。
???・・・タミちゃん一家の希望の象徴
三枝タミの物語 あとがき
※「あとがき」はネタバレを含みますので、本編を読んでから読まれることをお勧めします。
「三枝タミの物語 外伝:三枝美恵子の章」
今までのお話
三枝タミの物語(前編)
三枝タミの物語(中編)
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お父さんとお母さんは私に弟か妹ができると言った。
私はそれを聞いて、新しい家族が増えることを心から喜んだ。
タミちゃん「私に弟か妹ができるんだ・・・」
出産が近くなるとお母さんは病院に入院した。
私はできるだけ毎日のようにお母さんに会いに行った。
やがて、新しく生まれてくるのは男の子だとわかり、お父さんが「雄太」と名付けた。
そして私に弟ができることになった日。
病院では生まれたばかりの雄太をお父さんが抱いていた。
その姿は輝かんばかりに神々しく見えた。
お母さん「これでタミちゃんもお姉さんね。」
タミちゃん「私の弟・・・・」
お父さん「頼むぞ。タミお姉ちゃん。」
私はその呼び名に少し照れながら、みんなに祝福されて生まれた来た新しい家族をとても誇らしく思った。
しかし、それとは別に私の心の隅には小さな何かが生まれてくるのを感じた。
その時の私は、自分に弟ができたことがとてもうれしかったので、気のせいだと思った。
いや、今にして思えば、無理にそう思おうとして、無理やり心の底に押し込めたのかもしれない。
病院からうちに帰ってきたお母さんは時々私に雄太の面倒を見るように頼んできた。
私は新しくできた弟が大好きだったのですぐに世話の仕方を覚えて喜んで面倒を見ることを引き受けた。
その日も私はお母さんから雄太の世話をお願いされていた。
私は雄太をあやしながら、産婦人科の病室で感じた違和感がどんどん大きくなっていることに気が付いていた。。
どこからか声が響く。
デビルタミちゃん「ほら、あの細い首にちょっと力を入れたら終わる。やってしまえ。」
デビルタミちゃん「お前だってさんざん父親に殴られて育ってきたじゃないか。」
デビルタミちゃん「それをほんのちょっと他人に返すだけさ。」
デビルタミちゃん「お前は何せあの・・最低の父親の腐った血が流れてるんだから」
デビルタミちゃん「だからお前にはできる。」
デビルタミちゃん「クククク・・・この家でお前だけが違う。お前ひとりだけが。」
デビルタミちゃん「みんな、お前に遠慮して言わないが、お前は実の父親も殺した殺人者だ」
デビルタミちゃん「この意味、わかるだろう?」
タミちゃん「私はそんなことしない・・・望んでない」
デビルタミちゃん「今日はおとなしく引いてやるけど、いつかお前は必ずやるよ。何せあのクズみたいな父親の娘なんだからな。ハハハハハ。楽しみだ。」
それから私は何度も何度も雄太の首を絞めそうになり、そのたびに自分の腕をナイフやフォークで刺して思いとどまった。
両親は私の傷が増えていくことを心配したが私はそれどころではなかった。
何度も何度も過去の自分がフラッシュバックし、何度も何度も発狂しそうな程苦しんだが、自分がこの世界一幸せな家族の一員として一緒に頑張ることに希望をつないで死に物狂いで抵抗した。
ずっと実の父に殴られ、父が死んだ後もお母さんと一緒に父の作った借金を返すために内職を続け、三食満足に食べられない生活を続け、今のお父さんとお母さんが結婚してようやく手に入れた普通の子と同じ生活だ。
実の父に殴られてゴミ捨て場に捨てられて暗闇の中お母さんとの待ち合わせ場所に向かう道すがら窓から見たきらきらの宝石箱をようやく手に入れたのだ。
もう手に入らないと思ってあきらめていた私の宝物。
絶対に失いたくない。
お母さんと雄太と一緒にいたい。
私は必死に抵抗し続けた。
しかし、ついにある日、限界を迎えた私は自分自身にこの家族の一員として「許されざる者」であると最終判決を下した。いや、下さざるを得なかった。
私の腕は傷だらけになり、雄太を絞め殺すという衝動と戦い疲れて、げっそりとやせ細っていた。
私は悪魔に負けたのだ。
そして完全に負けてしまう前に、この家から離れなければならなかった。
私は雄太を傷つける前に自分に刑を執行した。
私は少し遠方の私立の全寮制女子中学校に進路を決めた。
自分の力では悪魔に到底勝てないことを思い知らされて、取り返しのつかないことになる前に逃げることにしたのだ。
いや、違う。悪魔の圧倒的な強さの前に怯えて逃げるしかなかったのだ。
お父さんには何度も何度も止められたが、「どうしても行きたいから」と強く言ったら最後は折れてくれた。
私はこの黒い悪魔と一生一緒に生きていくのだろう。
私があの最低の男の子供だった事実は変わらないし、この体にはあの男の血が半分は流れていることもまた事実なのだから。
そして、その最低の父親を手にかけたのは私自身だ。
まさに呪われた血とといわれても反論できないだろう。
誰にも言えないし、相談することもできなかった。
苦労して苦労して今の幸せを手に入れたお母さんにもこれ以上心配はかけたくなかった。
私の時間はあの雨の夜、実の父に殴られてゴミ捨て場に捨てられた日々で止まってしまったのだと思う。
出発の朝
タミちゃん「お母さん泣かないで」
お母さん「タミちゃん・・・・」
タミちゃん「お父さん。行ってきます」
お父さん「うぅぅぅぅううう。タミちゃん。グスッグスッ」
タミちゃん「(この人は相変わらずだなあ)」
お父さん「本当に車は出さなくていいのかい?」
タミちゃん「うーん。目立ちたくないから」
お母さん「何かあったらちゃんと連絡するのよ?」
タミちゃん「もー、学校通うだけなんだから」
私は我が家の希望の象徴であり、大切な愛すべき弟にも別れを告げる。
タミちゃん「雄太くん。じゃあね。」
雄太「あいー」
そうして、祝福された家族のいる輝ける世界に背を向けて歩き出した。
私はようやく手に入れた普通の生活を手放すことになった。
エピローグ
地元からは少し離れた場所にあるので当然ながら、学校には知っている子は誰もいなかった。
もちろん同じ学校から進学してきた子は誰もいない。
私にとっては今のお父さんとお母さんが結婚するまではずっと貧乏過ぎて友達が出来ず一人には慣れていたので、誰も知り合いがいないことは苦にならなかった。
今は無難にやり過ごしている。
学校が始まってしばらくしてから私は秘密の場所を見つけていた。
広く開けた丘にある小さな公園から新しく引っ越した町が一望できるのだ。
そこから街を眺めながら、この空で下でつながっているはずの大事な家族に思いをはせる。
雄太くん。この世界は君のものだよ。
優しいお母さんと頼りになるお父さん。
広い家、明るいリビング、ひなたの香りのする寝室。
きっと君は幸せに育つ。
両親の愛情をいっぱいに注がれて、曲がることなく両足で立っていくのだろう。
黒い雨の中をゴミ捨て場に息をひそめて隠れていた幼い私には世界はどす黒くて寒々しいものだった。
雄太君にとってはきっと世界は希望と幸せに満ちてるんだ。
私にこの幸せな世界を壊す権利はない。
この祝福された世界に黒い悪魔を解き放ってはいけない。
黒い雨と実の父の怒号、ゴミ捨て場の中で生まれた黒い悪魔をこの希望の世界に近づけてはいけない。
呪われるのはあの最低の男と、血のつながった私だけで十分のはずだ。
夏休みや冬休みには家に帰ることになるのかもしれない。
でも、黒い悪魔を心のうちに飼っている私があのうちの団欒に本当の意味で加われることはきっともう二度とないだろう。
絶対に油断することの無いように、黒い悪魔が表に出てこないように常に張りつめて気力を振り絞らなくてはならないだろう。
誰のためでもない大事な私の家族とその幸せを守るために。
幼いころ毎日殴られ続けた私がどんなに望んでも決して得られなかった、あの宝石箱のような家族を守るために。
雄太くん、生まれてきて、おめでとう。
呪われて疎まれて生まれてきて、実の親まで手にかけた私に、命の誕生があんなにも誇らしいものだと教えてくれてありがとう。
私の弟に生まれてきてくれてありがとう。
こんなお姉ちゃんでごめんなさい。
生まれてきてごめんなさい。
こんな私でも、お母さんも、お父さんも愛しているし、もちろん雄太君のことも愛してる。大好きだよ。
私は今日もこの場所で祈り続ける。
たとえどんなに離れていても
たとえ毎日会えなくても
この思いが届きますようにと
あの宝石の輝きが永遠に失われませんようにと
希望にのせて。
三枝タミの物語 あとがき
※「あとがき」はネタバレを含みますので、本編を読んでから読まれることをお勧めします。
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