三枝タミの物語(中編)
登場人物:
三枝タミ・・・本編の主人公。5歳
三枝美恵子・・・タミちゃんのお母さん。看護婦として働いている。
北村・・・タミちゃんのお父さん。お金のためにタミちゃんを殺そうとするが・・・。
次のお話
三枝タミの物語(後編)
三枝タミの物語 あとがき
※「あとがき」はネタバレを含みますので、本編を読んでから読まれることをお勧めします。
「三枝タミの物語 外伝:三枝美恵子の章」
今までのお話
三枝タミの物語(前編)
Dell ゲーミングノートパソコン G5 15 5590
Core i5 ホワイト 20Q21/Win10/15.6FHD/8GB/128GB SSD+1TB HDD/GTX1650
ハニセレが動くノートPC!
私は、警察の人にいろいろ聞かれたが、それは事情聴取という性質のものではなく、現場の状況を整理するためのものだった。
しかし、私は子供だったこともあってあまり言うことは信用されてないようで、念のために聞いているという程度のものだったようだ。
父が死ぬ直前に私にソフトクリームを買って上げていることはお店の人も知っているため、父の死因は疑われることはなく、街の人たちからは「珍しく善行を積んだら神様の目に留まって罰が当たったに違いない」とまことしやかに語られた。
葬儀には私たち以外は誰も来なかった。
それほど父はみんなから嫌われていた。
父が死んで「よかった」と思う人はいても惜しむ人は一人もいなかったのだ。
父の葬式が済み、しばらくするとお母さんが仕事に行ってる間私は一人ぼっちになったが、誰からも殴られなくなって毎日幸せを感じていた。
しばらくは平穏な日々が続いたが、そんな日々は長くは続かなかった。
父が借金をしていることが発覚したからだ。
とても気まずいところからもお金を借りていたようだが、隣のおじいさんが間に入って、何とか借金を一つにまとめてくれたそうだ。
それからお母さんと私は借金の返済のために暮らし向きはとても貧乏になった。
三食ろくに食べられず、私は飢えをしのぐために時々山に入っていろいろなものをとるようになった。
お給料日の前には小麦粉に砂糖を入れて飲んで飢えをしのぎ、ぎりぎりの生活が続いた。
私は学校に通い始めたが、テレビもゲームもおもちゃも何もない生活だったので、話の合う子は一人もおらず、友達もできなかった。
お母さんは少しでも家計の足しにするために仕事のほかに内職も始めたが、仕事から帰ってきたら疲れてしまっていたので、内職は私がすることにした。
私は少しでもお母さんを助けてあげたかったので、内職をすることには少しもつらくなかった。
最初はお母さんからしなくてもよいといわれたが、そのうち、何も言われなくなった。
そのほかは山に入って食料を集めて過ごした。
私の唯一の娯楽は学校や市の図書館で本を読むことだったので、食べられるものは図書館で図鑑を借りたり読んだりして調べた。
しかし、お母さんは貧乏生活と多忙な仕事にどんどんやつれていき、勤務先の病院で倒れるようになった。
私は最初のころはそのことを知らなかったが、病院から連絡が来て、お母さんの具合が悪くなっていることを知った。
私は青い顔のお母さんを不安そうに見つめ、何とかしようと考えたり給食のパンに一切手を付けずに持って帰ってお母さんのためにとっておいたりしたが、子供の私にはそのくらいしかできなかった。
お母さんは仕事から帰ってくると青い顔をして、「タミちゃんごめんなさい。母さんはもう寝るわ。タミちゃんもあまり無理しちゃダメよ。」そういってすぐに布団に入ってしまった。
幼かった私にとってはお母さんは世界のすべてであり、父の暴力から守ってくれた唯一の存在だった。
そのお母さんが日に日に弱っていくのを見るのは辛く、苦しく、不安だった。
このころ、私は成長に伴って実の父親がどのように死んだのか薄々理解するようになっていた。
いや、このはっきりしない言い方は自己弁護だろう。
卑怯な言い方だったと思うから訂正する。
周りの人の反応や過去の記憶から私は自分がこの手で実の父を殺したことをはっきりと理解していた。
せっかくあの父から解放されたのもつかの間、今度は借金による出口の見えない辛い貧乏生活が始まり、お母さんも私も徐々に精神をすり減らしていった。
そんな日々が数年続いたある日、お母さんはとてもうれしそうに帰ってくることが多くなった。
私はお母さんが少し元気になったのを見て、ほっと胸をなでおろしたことを覚えている。
そして私がいつもの通り内職をしていると、「ねえ、タミちゃん。タミちゃんに会ってほしい人がいるんだけど・・・」
お母さんは少し遠慮しがちに私にそういった
私はお母さんに「もちろんいいよ。誰なの?」と返事をした。
でも私はその人が男の人で自分の新しいお父さんになるんだとうすうす気が付いていた。
そして私は実の父にさんざん殴られたことを思い出して憂鬱になった。
とても嫌だったが幸せそうなお母さんの姿を見ていると何も言えなかった。
お母さんが背負ってる不幸のいくらかは私の責任だと死んだ実の父からさんざんふき込まれてきたからだ。
私がその人に初めてあったのはレストランだった。
お母さんはその人と会った瞬間からずっと目で追って、今まで見たことが無いような輝くような笑顔を浮かべていた。
私はそれを見て、「ああ、もうお母さんは心に決めてるんだな」と思った。
そして実の父に私がいかに邪魔者であるかさんざんなじられ、殴られ続けた私は絶対に邪魔をしてはいけないと思った。
私はお母さんの邪魔にならないように食べ物に集中していた。
私はその日生まれて初めてハンバーグ定食というものを食べた。
世の中にはこんなおいしいものがあるのかとびっくりしたことを覚えている。
その男の人はずっと私にも気をつかってくれ、終始優し気な笑顔を浮かべていた。
その日の帰り道あの男の人と別れて、少し寂しそうな顔をして歩くお母さんと手をつなぎながら「ね、お母さん、あの人と結婚するの?」と私は尋ねた。
お母さんは少しびっくりしたような顔をして「タミちゃんさえよければそうしたいと思ってるの」といった。
私は今まで何も言われてこなかったけど、ずっと私のせいでお母さんが不自由な生活を送ってきたと思っていたので、とても気が進まなかったけど「うん、いいよ。そっか、あの人が新しいお父さんになるんだ。」と言った。
お母さんは何も言わずに私を抱きしめて、優しく頭をなでてくれた。
それからしばらくして、お母さんはその人と結婚した。
私が小学4年生のころだったと思う。
そして私には新しいお父さんができた。
新しいお父さんは私たちの生活を劇的に変えてくれた。
借金はお父さんが返済してくれたらしかった。
そして、お父さんはとてもお金持ちで私たちと新しい生活を送るために買った家はとても広くて、車も何台もあった。
明るいリビングに大きなテレビ、お風呂。広い庭。
今まで想像もしなかったものが一度に手に入った。
「わぁーひろーい」
私はリビングルームに入ってはしゃいだ。
お母さんに「タミちゃん、あんまりはしゃいじゃダメよ」といわれたが、私は広くて明るいおとぎの国のような世界に夢中だった。
「これがテレビ?」
信じられないかもしれないが、私はテレビをその時初めて見たのだ
お父さん「衛星放送でもケーブルテレビでも全部契約してあるからタミちゃんの好きなものを何でも見ていいんだよ」
「すごーい」
お母さん「タミちゃん。こっちにいらっしゃい」
そういうと新しいお父さんとお母さんは私を一つの扉の前に連れて行った。
「これ、なあに」
お父さんが扉を開くと、そこは私とお母さんが以前借りていた部屋より広い部屋だった。
部屋の家具や机ははすべて女の子向けになっていた。
お母さん「ここはタミちゃんだけの部屋よ」
「私・・・だけの部屋?」
その時の私は自分ひとりで使える部屋が家にあるなんてことは考えたこともなかったのでとてもびっくりした。
お父さん「急いでいたので適当に見繕ったけど、気に入らないものがあったら何でも言ってくれればすぐに交換するよ」
「すごーい。いいです。これで十分です。」
お母さん「ほら、タミちゃん。お父さんにお礼を言いなさい」
「ありがとう・・・お・・・と・・ぅ・・さん」
お父さん「タミちゃん。もう一度言って欲しい」
お父さんは後ろにイナズマの走る幻覚が見えるような勢いでガッツポーズをしてそう言った。
私は真っ赤になりながら、お母さんの後ろに隠れた
そうして私は貧乏な家の子から一気にお金持ちのお嬢さんになった。
お父さんはまだ苦手だけど、お母さんは元気になって前より優しくなった。
ついに私は前の父に殴られてお母さんとの待ち合わせ場所に行く道すがら暗闇の中、泣きながら窓を見上げて憧れたあのきらきらの宝石箱を手に入れたのだ。
この時は私は、自分が世界で一番幸せな子供だと思った。
そして、窓の外の綺麗な夕暮れを見ながらこの幸せが永遠に続きますようにと神様に祈った。
次のお話
三枝タミの物語(後編)
三枝タミの物語 あとがき
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今までのお話
三枝タミの物語(前編)
三枝タミ・・・本編の主人公。5歳
三枝美恵子・・・タミちゃんのお母さん。看護婦として働いている。
北村・・・タミちゃんのお父さん。お金のためにタミちゃんを殺そうとするが・・・。
次のお話
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※「あとがき」はネタバレを含みますので、本編を読んでから読まれることをお勧めします。
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今までのお話
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私は、警察の人にいろいろ聞かれたが、それは事情聴取という性質のものではなく、現場の状況を整理するためのものだった。
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葬儀には私たち以外は誰も来なかった。
それほど父はみんなから嫌われていた。
父が死んで「よかった」と思う人はいても惜しむ人は一人もいなかったのだ。
父の葬式が済み、しばらくするとお母さんが仕事に行ってる間私は一人ぼっちになったが、誰からも殴られなくなって毎日幸せを感じていた。
しばらくは平穏な日々が続いたが、そんな日々は長くは続かなかった。
父が借金をしていることが発覚したからだ。
とても気まずいところからもお金を借りていたようだが、隣のおじいさんが間に入って、何とか借金を一つにまとめてくれたそうだ。
それからお母さんと私は借金の返済のために暮らし向きはとても貧乏になった。
三食ろくに食べられず、私は飢えをしのぐために時々山に入っていろいろなものをとるようになった。
お給料日の前には小麦粉に砂糖を入れて飲んで飢えをしのぎ、ぎりぎりの生活が続いた。
私は学校に通い始めたが、テレビもゲームもおもちゃも何もない生活だったので、話の合う子は一人もおらず、友達もできなかった。
お母さんは少しでも家計の足しにするために仕事のほかに内職も始めたが、仕事から帰ってきたら疲れてしまっていたので、内職は私がすることにした。
私は少しでもお母さんを助けてあげたかったので、内職をすることには少しもつらくなかった。
最初はお母さんからしなくてもよいといわれたが、そのうち、何も言われなくなった。
そのほかは山に入って食料を集めて過ごした。
私の唯一の娯楽は学校や市の図書館で本を読むことだったので、食べられるものは図書館で図鑑を借りたり読んだりして調べた。
しかし、お母さんは貧乏生活と多忙な仕事にどんどんやつれていき、勤務先の病院で倒れるようになった。
私は最初のころはそのことを知らなかったが、病院から連絡が来て、お母さんの具合が悪くなっていることを知った。
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お母さんは仕事から帰ってくると青い顔をして、「タミちゃんごめんなさい。母さんはもう寝るわ。タミちゃんもあまり無理しちゃダメよ。」そういってすぐに布団に入ってしまった。
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このころ、私は成長に伴って実の父親がどのように死んだのか薄々理解するようになっていた。
いや、このはっきりしない言い方は自己弁護だろう。
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お母さんは少し遠慮しがちに私にそういった
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そして私は実の父にさんざん殴られたことを思い出して憂鬱になった。
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お母さんが背負ってる不幸のいくらかは私の責任だと死んだ実の父からさんざんふき込まれてきたからだ。
私がその人に初めてあったのはレストランだった。
お母さんはその人と会った瞬間からずっと目で追って、今まで見たことが無いような輝くような笑顔を浮かべていた。
私はそれを見て、「ああ、もうお母さんは心に決めてるんだな」と思った。
そして実の父に私がいかに邪魔者であるかさんざんなじられ、殴られ続けた私は絶対に邪魔をしてはいけないと思った。
私はお母さんの邪魔にならないように食べ物に集中していた。
私はその日生まれて初めてハンバーグ定食というものを食べた。
世の中にはこんなおいしいものがあるのかとびっくりしたことを覚えている。
その男の人はずっと私にも気をつかってくれ、終始優し気な笑顔を浮かべていた。
その日の帰り道あの男の人と別れて、少し寂しそうな顔をして歩くお母さんと手をつなぎながら「ね、お母さん、あの人と結婚するの?」と私は尋ねた。
お母さんは少しびっくりしたような顔をして「タミちゃんさえよければそうしたいと思ってるの」といった。
私は今まで何も言われてこなかったけど、ずっと私のせいでお母さんが不自由な生活を送ってきたと思っていたので、とても気が進まなかったけど「うん、いいよ。そっか、あの人が新しいお父さんになるんだ。」と言った。
お母さんは何も言わずに私を抱きしめて、優しく頭をなでてくれた。
それからしばらくして、お母さんはその人と結婚した。
私が小学4年生のころだったと思う。
そして私には新しいお父さんができた。
新しいお父さんは私たちの生活を劇的に変えてくれた。
借金はお父さんが返済してくれたらしかった。
そして、お父さんはとてもお金持ちで私たちと新しい生活を送るために買った家はとても広くて、車も何台もあった。
明るいリビングに大きなテレビ、お風呂。広い庭。
今まで想像もしなかったものが一度に手に入った。
「わぁーひろーい」
私はリビングルームに入ってはしゃいだ。
お母さんに「タミちゃん、あんまりはしゃいじゃダメよ」といわれたが、私は広くて明るいおとぎの国のような世界に夢中だった。
「これがテレビ?」
信じられないかもしれないが、私はテレビをその時初めて見たのだ
お父さん「衛星放送でもケーブルテレビでも全部契約してあるからタミちゃんの好きなものを何でも見ていいんだよ」
「すごーい」
お母さん「タミちゃん。こっちにいらっしゃい」
そういうと新しいお父さんとお母さんは私を一つの扉の前に連れて行った。
「これ、なあに」
お父さんが扉を開くと、そこは私とお母さんが以前借りていた部屋より広い部屋だった。
部屋の家具や机ははすべて女の子向けになっていた。
お母さん「ここはタミちゃんだけの部屋よ」
「私・・・だけの部屋?」
その時の私は自分ひとりで使える部屋が家にあるなんてことは考えたこともなかったのでとてもびっくりした。
お父さん「急いでいたので適当に見繕ったけど、気に入らないものがあったら何でも言ってくれればすぐに交換するよ」
「すごーい。いいです。これで十分です。」
お母さん「ほら、タミちゃん。お父さんにお礼を言いなさい」
「ありがとう・・・お・・・と・・ぅ・・さん」
お父さん「タミちゃん。もう一度言って欲しい」
お父さんは後ろにイナズマの走る幻覚が見えるような勢いでガッツポーズをしてそう言った。
私は真っ赤になりながら、お母さんの後ろに隠れた
そうして私は貧乏な家の子から一気にお金持ちのお嬢さんになった。
お父さんはまだ苦手だけど、お母さんは元気になって前より優しくなった。
ついに私は前の父に殴られてお母さんとの待ち合わせ場所に行く道すがら暗闇の中、泣きながら窓を見上げて憧れたあのきらきらの宝石箱を手に入れたのだ。
この時は私は、自分が世界で一番幸せな子供だと思った。
そして、窓の外の綺麗な夕暮れを見ながらこの幸せが永遠に続きますようにと神様に祈った。
次のお話
三枝タミの物語(後編)
三枝タミの物語 あとがき
※「あとがき」はネタバレを含みますので、本編を読んでから読まれることをお勧めします。
「三枝タミの物語 外伝:三枝美恵子の章」
今までのお話
三枝タミの物語(前編)