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三枝タミの物語 あ・ら・か・る・と 「お父さんの野望・後編」

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Byhslre

前回までのあらすじ
お父さんは友人の父親だった「恐喝市議」というあだ名の悪田悪之丞にタミちゃんをドラムメジャー(指揮者)にしてくれと裏取引を持ちかけていた。
タミちゃんの学校で行っている選抜マーチングバンドメンバーに関しておかしな噂が流れ始め、タミちゃんはお父さんを疑い始める・・・
大人の世界から強烈な圧力がかかり、無力な子供のタミちゃんたちを翻弄する。
果たしてタミちゃんは渚を守ることが出来るのか?
お父さんと対決することになってしまうのか?
今まで自分を守ってくれていたお父さんの強大な力を感じながら、タミちゃんは果敢に立ち向かう。
今、「あ・ら・か・る・と」史上最大の試練がタミちゃんを待ち受ける。
タミちゃんはお父さんが居間に出しっぱなしにしているDVDを見つけました。
再生してみると・・・・
タミちゃんはこの時点でお父さんが何かをしているという確信のようなものを得ていました。
一計を案じたタミちゃんは、夜寝るふりをして居間の電話を見張ることにしました。
数日後お父さんが誰かとお話をしていました。
お父さん「おじさんありがとうございます。どうやらドラムメジャーはタミちゃんに決まりそうな雰囲気です。」
悪田「そうだろうそうだろう。ハハハハハハ」
お父さんは電話を切ると何かの視線を感じて振り返りました。
タミちゃん「お父さん。今の電話は何ですか?」
お父さん「お父さんの知り合いの人だよ。友達のお父さんなんだ。」
タミちゃん「学校で変な噂が流れています。タミが渚ちゃんを追い落とすために裏で動いてるって」
お父さん「そんな根も葉もないうわさを信じてはいけないよタミちゃん」
タミちゃんは後ろに隠してあるDVDを出しました。
お父さんは思わず「どうしてそれを・・・・」
タミちゃん「やっぱりお父さんが裏工作してたんですね?」
お父さん「それは・・・」
タミちゃん「渚ちゃんは突き飛ばされてけがをしたんですよ?」
お父さん「私はそこまでやれとは言ってない。ハッ」
お父さんのその言葉を聞いて、タミちゃんの表情は見る見るうちに曇っていきました。
タミちゃん「酷いよお父さん。渚ちゃんは学校で最初にできたお友達だったのに・・・・」
タミちゃんはしばらく泣くとお父さんをキッと睨み。
タミちゃん「お父さんは最低です。こんな人だとは思わなかった。お父さんなんて大っ嫌い」
タミちゃんは泣きながら部屋に戻りました。
気が付くとドアのそばにお母さんが立っていました。
一部始終を聞いていたと表情が語っていました。
お父さんはがっくりと膝を落とし、うなだれていました。
「タミちゃんごめんよ・・・許しておくれ・・・」

翌朝、お父さんの分のお弁当は無く、500円が置いてありました。
タミちゃんは一言もお父さんと口をききませんでした。

お父さんはがっくりと膝を落とし、うなだれていました。
「タミちゃんごめんよ・・・許しておくれ・・・」

会社にて・・・・
藤崎専務「仕事は普段通りだが、目が完全に死んでる・・・タミちゃんのお弁当も持ってきてないし・・・」
藤崎専務「どうしたんだ?」
お父さん「なんでもないさ。専務・・・」
藤崎専務「どう見ても何かあった顔だぞ。帰りに一杯付き合え。」

藤崎専務は飲み屋でお父さんに話を聞きました。
藤崎専務「そりゃお前が悪いな。タミちゃんも怒るわけだ」
お父さん「わかってるよ」
藤崎専務「父親失格だな。まさにダメ人間」
お父さん「・・・・」
藤崎専務「タミちゃんも親に人生の足を引っ張られるとは思ってなかっただろう。かわいそうに」
お父さん「おい、少しはポジティブ発言しろ」
藤崎専務「そうだ、いい案がある」
お父さんは目を輝かせて「なんだ?」
藤崎専務「タミちゃんを家で引き取るというのはどうだ?」
お父さん「オイ、オッサン。まじめに考えろ」
藤崎専務「オッサンとは何だ5つしか違わないだろ」
お父さん「いや、そんなことはどうでもいい・・・とにかくタミちゃんに許してもらわなければ。口もきいてもらえないんだよ。」
藤崎専務「どうするって、そりゃあ、ひたすら謝るしかないだろ。」

そのころ、タミちゃんの家
お母さん「ね、タミちゃん。お話があるんだけど。」
タミちゃん「いくらお母さんの頼みでも今度のことは絶対に許せないです。」
お母さん「お母さんもやり過ぎだと思うから、許してほしいとは言わない。でも、お父さんがああいうことをしたのは半分はお母さんの責任なの。」
タミちゃん「お母さんはいつもそういうけど、今回のことはそうは思えない。」
お母さん「違うわ。お母さんがちゃんとタミちゃんに食べさせてあげられていたら、タミちゃんの身長はもっと大きくなっていて、ちゃんとドラムメジャーに選ばれていたと思うの。」
タミちゃん「どうしてそう思うんですか?」
お母さん「お母さんもドラムメジャーだったから。その娘であるタミちゃんなら、きっと正々堂々と渚ちゃんと競争して勝っていたと思うから。」
タミちゃん「お母さんが・・・・」
お母さん「そうよ。正直に言えばお母さんもどんな卑怯な手を使ってもタミちゃんに一番に輝く場所にいてほしいと思ってるの。お父さんのしたことを許してあげてほしいとは言えないけど、お父さんがタミちゃんのことを思う気持ちは分かってあげてほしいの。」
タミちゃんは目を伏せて、何も言わずに部屋に戻りました。

翌日、お弁当はお父さんの分も用意されていました。
お父さん「タミちゃん・・・」
タミちゃんはキッとお父さんを睨んで「お父さんのやったことはまだ許せないです。でも、お父さんがタミのことを考えていてくれたということは分かりましたのでお弁当は作ります。」
お父さん「タミちゃん・・・」
お父さんは少しほっとした顔をして、少し肩を落として会社に行きました。

会社にて
藤崎専務「お、弁当作ってもらえるようになったのか?」
お父さん「ああ・・・」
藤崎専務「タミちゃんはよくできた子だな」
お父さん「全くだ。とても賢い子だよ。子供だと思ってたんだけど・・・」
藤崎専務「子供なんてあっという間に成長するもんさ」


タミちゃんは学校で、全てを渚に話、謝罪してからマーチングバンドのメンバーを辞退することを告げました。
渚「タミちゃんは悪くないよ。」
タミちゃん「私が私を許せないんです。」
渚「それでも、タミちゃんはメンバーに残るべきだと思う」
タミちゃん「どうしてですか?」
渚「私がタミちゃんにいてほしいと思ってるから」
タミちゃん「渚ちゃんはズルいですよ・・・・・そんな言い方・・・」
涙を流すタミちゃんを渚はそっと優しく抱きしめました。

タミちゃん「少し考えさせてください。」


タミちゃんは家に帰ると、お母さんにマーチングバンドのメンバーを辞退することを告げました。
お母さんは目を閉じて、ポケットから一枚の写真を取り出しました。
そしてそれをタミちゃんに渡しました。
そこにはタミちゃんによく似た少女がドラムメジャーの服を着て数人のメンバーと一緒に笑っていました。

お母さん「お母さんの写真よ。そして、タミちゃんがちゃんとした生活を送れていたら、タミちゃんもそうなっていたはずだと思うの。」

タミちゃんは首を横に振って、お母さんの言うことを否定しました。

お母さん「どうしてもタミちゃんが辞退するというのなら止めないけど、これだけは覚えておいて。タミちゃんは今まで大人の都合で振り回されてきた。子供の世界にいるタミちゃんにはどうすることもできなかったし、責任は無いのよ。全てはずっとタミちゃんと一緒にいた親であるお母さんの責任なの。」

タミちゃんは静かに居間から出て自分の部屋に戻りました。

学校にて
渚は職員室に行ってドラムメジャーがどのようにして決まったか聞きました。
そしてメンバー希望の紙に推薦されていたこと、タミちゃんと渚が一票差であったことを知った渚は新しくサブドラムメジャー(指揮者の補佐)を作ることを先生に申し出しました。
それは一時保留されましたが、悪田に内通している父兄の子供を通じて悪田の耳に入り、サブドラムメジャーを作るよう外部から強烈な横やりが入りました。

渚はタミちゃんに「タミちゃん。マーチングバンドのメンバーは止めないよね?今年からドラムメジャーに補佐が付くことになったんだよ。タミちゃんに私を助けてほしい。」
タミちゃん「私にはそんな資格はありません。」
渚「タミちゃんは悪くないよ。タミちゃんは離島でも私を助けてくれた。あの時は難しいことは考えてなかったと思う。私もあの時のタミちゃんみたいに大人の世界から降りてきた妖怪と勇敢に戦いたいんだよ。今度は私がタミちゃんを助けたい。一緒にやろう。タミちゃん。」
タミちゃんは心の中の迷いの大きさから、返事ができませんでした。
タミちゃんは「ごめんなさい」というと渚に背を向けました。
渚はその後ろ姿に声を掛けました。
「必ず私の隣に戻って来てくれるって信じてる。信じて待ってるね。タミちゃん」

その日タミちゃんはマーチングバンドの練習に出ずに家に帰りました。
その晩
お父さん「悪田のおじさんにはもう何もしないでくれと言ってある。お父さんは何も言わないよ。タミちゃんはもう自分で正しい答えを出せる子だと思うから。」
タミちゃんはサブドラムメジャーのことをお父さんとお母さんにお話ししました。
お母さん「そう、渚ちゃんは許してくれているの。お母さんはタミちゃんにどうしろとは言わないけど、お母さんの希望は、渚ちゃんと一緒にやってほしいかな。」
タミちゃんはしばらく迷っていましたが、ぽつりと言いました。「タミは・・・・じゃあ、受けることにする」

タミちゃんは翌日職員室に行ってサブドラムメジャーを受けることを先生に告げました。
先生たちは全員ほっとした顔をしていました。

そうしてタミちゃんはマーチングバンドの練習に戻りました。

渚「お帰り。タミちゃん。きっと来てくれると思ってたよ」
渚は笑顔でタミちゃんに手を差し伸べました。
タミちゃんは少し迷ってから笑顔でその手を取りました。
グラウンドには手に手を取って練習に向かう二人の少女たちを祝福するようには明るい日差しが降り注いでいました。

それからしばらくたった、年に数回あるマーチングバンドの演奏会の日
タミちゃんと渚は大勢の人たちの喝さいを浴びながら堂々とドラムメジャーを務めました。
お父さんもお母さんも、他の父兄たちも優しい笑顔でそれを見守っていました。

タミちゃんの笑顔にはかつて虐待されていたころの曇りは無く、晴れやかな表情をしていました。

次回・・・・出会いがあれば別れもある。
「あ・ら・か・る・と」最終回「三枝タミ 幼年期の終わり」




今回のお話は、今までタミちゃんを助けてきたお父さんの絶大な力がマイナスに作用したらどうするのか?というお話です。
今まで保護されるだけだったタミちゃんが、大人の世界の強烈な力に振り回されてどんなふうに考えてどんなふうに行動するのかということを書いてみました。
そして、それがイコールタミちゃんの子供時代の終わりを告げるものです。
保護される側から、保護する側へ、誰もが通る道のりをタミちゃんはこんなに早く迎えていくことになります。

Note
悪田悪之丞は悪人なのか?
作中では徹底して悪役を振られた悪田悪之丞ですが、彼は純粋な意味で悪人かと言われればそうではないです。
そして本人も悪いことをしているという意識はありません。
彼は徹底した権力志向の人間で、力があるものが弱いものを押しのけるは当然という考え方を持っていて、プロの利益誘導者です。
その仕事に誇りを持っているので、どんな批判を浴びても涼しい顔をしています。
彼の信念は、「世の中利害の衝突なしに何事も無し得ないのだから、強いもの、より優れたものが前に出るのは当然」で、彼の持っている物差しがたまたま政治力だったということです。
こういう人は多分世間から見たら悪人に見えるのだと思いますが、当の本人は自分の何が悪いと思われているのかわかってないです。
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